タンザナイト(Tanzanite)

アフリカ・タンザニアの商都アルーシャから眺める夜のキリマンジェロ山。月の出ているその空の色はビロードのような群青色(ぐんじょういろ)、云い替えればウルトラ・マリン・ブルー―――「この青色は当地で見つかったばかりの新種ゾイサイトの色そのものだ!」と感動的に叫んだのは、あのティファニー宝石店から当地にに派遣された鉱物学者キャンベル・ブリッジスでした。ちょうど隣国ケニヤで新種ガーネット「ツァボライト」を発見して市場デビューさせたばかりのティファニー社は、その新種ゾイサイトに畏れ多くも土地の国名を冠(かぶ)せて「タンザナイト」と名付け、青色宝石の新境地を全世界に標(しる)しました。同社ヘンリー・ブラット社長がこのネーミングに込めたのは、「ブルーが濃い」ことに加えて、見る角度によってウルトラ・マリン・ブルーにも、パープリッシュ・ブルーにも、はたまたグリーニッシュ・イエローにさえも変化するマジカルなその「多色性」だったのです。――タンザナイトを筆頭に様々な希少宝石のゴッド・ファーザー(名付け親)になっているティファニー宝石店は、命名宣言以来今日に至るまで、命名権・商標権などを決して独占或いは主張することなく、宝石を愛して已まない万民のために稀有の新種宝石指南役を果たして来ました。

ジェムストーン物語 タンザナイト ルース

タンザナイトのリング 02

PT900 T-4.45ct D-1.17ct

タンザナイトとパライバトルマリンのネックレス 01

PT900 T-7.56ct Paraiba-0.14ct D-0.44ct

タンザナイトのジェム・メッセージ

タンザナイトの公式鉱物名は「ゾイサイトの青色変種」、短く略して「ブルー・ゾイサイト」。鉱物ゾイサイトの主成分はアルミニウムとカルシウムの珪酸塩CaAl3(SiO4)3(OH)で、純粋無垢なゾイサイトは理論上無色透明ですが、ではブルー発色のメカニズムはというと、ゾイサイトの結晶成長途上で地殻変動等による高熱の変成作用のため主成分の一つアルミニウム元素(Al)が外部から闖入(ちんにゅう)して来た異元素バナジウムと置き換わり、その置換量が多ければ多いほど強い青~紫色を発色するという訳です。―――タンザナイト結晶は、しかし、宿命的に微細な不純物が紛れ込んでいて、うっすらと褐色がかるのはどうしても避けられません。原産地タンザニアでは、採掘した原石を400~500℃で低温加熱して透明度改善に努めています。鉱物学的に見てもこの低温加熱処理による素材の劣化はなく、加工は永続的なものと認識されており、「石本来の美しさを人の手で引き出す手段(=エンハンスメント)」として広く宝石界に支持されています。―――最後に少々難しい話。ここ1ピースの透明で美しいタンザナイトがあるとして、それが加熱処理による「透明」か、それともナチュラルな「透明」か?――今日の宝石鑑別技術ではそれを識別するのは困難と云われています。従って、市場のどこかに非加熱の透明で美しいタンザナイトが実在したとしても、それが非加熱であることは、残念ながら誰も証明できません。宝石は神秘そのものと云われる所以です。

タンザナイトとダイヤモンドのリング01
PT900 T-3.31ct D-0.24ct

サファイアとダイヤモンドのペンダント01
PT900 T-0.17ct D-0.1ct

タンザナイトのマザーランド(代表的産地)

アフリカ大陸東岸タンザニアの北部国境付近(北隣りはケニア)にそびえる大陸最高峰キリマンジェロ火山――その南麓一帯に広がるメレラニ丘陵に数多く点在する晶洞群。そこがタンザナイトの発見地にして世界唯一の現役鉱山です。タンザニアの首都ダルエス・サラーム又は隣国ケニアの首都ナイロビ経由で内陸の商都アル-シャへ。更に陸路で西へ約300㎞の丘陵地帯に晶洞群として分布する「メレラニ鉱山」は、「鉱山」と云っても、手掘りで地下30m掘った竪坑(たてこう)と水平方向に高さ60cmのトンネルが総延長3000m伸びたもの。鉱山国営化の1991年時点で2,500人いた鉱夫は、手掘り採鉱、全搬送人力依存、坑内無灯火・無換気といった過酷な環境に懸命に耐えました。群青色のゾイサイトを一粒でもそこに掘り当ててこそ、すべてが報われたからでしょう。

歴史の中のタンザナイト

タンザナイトが属するゾイサイトという鉱物の起源はさほど古くなく、19世紀明けハプスブルグ王家お抱えの鉱山学者ゾイス・フォン・エーデルシュタインZois von Edelsteinがアルプスを探索中に発見したことから、その発見者の名前に由来します。そこから150年後、アフリカ・タンザニアで先住民マサイ族の鉱夫マヌエル・ド・スーザが群青色の珍しい鉱物を発見します。時に1967年。奇しくもその時タンザニアに居合わせたのが鉱物学の権威で米国ティファニー社の顧問を務めていたキャンベル・ブリッジス博士。実は同地で発見されたばかりのツァボライト(新種ガーネット)の調査のためタンザニアを訪れていた博士は、現地の鉱夫スーザが持ち込んだ石を見るや「ゾイサイトの青色新種宝石だ。掘りたての原石でこれほど透明で美しいとは!」と驚嘆し、米国に持ち帰ります。石に対面したティファニー社ヘンリー・ブラット社長(創業2代目ルイ・コンフォート・ティファニーの曾孫)も「私の知る限り最も美しいブルー・ジェム」と云い切り、この新種ゾイサイトに発見地への敬意」を込めて「タンザナイト」と命名します。その翌々年日本にもこの宝石がお目見えします。1970大阪万博、持ち込んだのはタンザニア政府自身でした。

タンザナイトのトリビアから

●自然光でビロードのような群青色に輝いていた宝石が、白熱光でアメシストのような赤紫色に、また蛍光灯の光でエキゾチックなパステル・グリーンに変化(へんげ)する様は、妖しいまでの“光と色の妙”というほかありません。それはまるで、移ろい動く人の心の中を覗くよう。そこがまた、この石の魅力なんですが・・・・。

●鉱夫マヌエル・ド・スーザがキリマンジェロ山の麓で濃紺に輝くゾイサイトを見つけた時、たまたま一帯に雷が落ち、晶洞周辺が突然の“野火”の炎に包まれた、という「伝説」があります。それは、あたかも大自然の偶然が演じた巨大スケールの“鉱物加熱処理”だった、という訳ですが、その日、もしも雷が落ちていなければ、タンザナイトの発見は、そもそもなかったかもしれません。

●お馴染みの『誕生石』が米国市場で公式に制定されてから1世紀になりますが(1912年全米宝石商協会)、12ヶ月計25種のジェムは、新世紀に入って初めて一つ増えました。それがタンザナイトです。今まではトルコ石かラピス・ラズリで我慢していた12月生まれの諸君、改めてタンザナイト・ブルーの世界にようこそ!

タンザナイト履歴書

鉱物名

ブルー・ゾイサイト

和名

灰簾石(かいれんせき)

組成

アルミニウムとカルシウムの珪酸塩CaAl3(SiO4)3(OH)

産地

タンザニア・メレラニ鉱山

硬度

6~7

比重

3.10~3.15

屈折率

1.691~1.700

結晶

斜方晶系/多結晶面の柱状

誕生石

12月