緑色ガーネット—デマントイドとツァボライト(Demantoid & Tsavorite)

赤いザクロの実のような宝石ガーネットに、“赤くない新種”が発見されたのは19世紀なかば。それは赤色とは対極の「みどり色」でした。―――帝政時代のロシア・ウラル地方からイエロイッシュ・グリーンの「デマントイド」が採掘され、続いてその百年後、アフリカはケニア・タンザニア国境地帯からディープ・グリーンの「ツァボライト」がデビューしました。
自国内で珍しい緑色ガーネット「デマントイド」が出ることを知ったロシア皇帝アレクサンドル3世は、宮廷金工職人カール・ファベルジェにその石で宝飾品を多数作らせます。目敏くその珍品を見つけたのは、あのティファニーの副社長ジョージ・クンツGeorge F.Kunz博士。加工品では飽き足らない博士は、採掘地ウラル・タージニー・ニキール村まで押し掛け、何と良質のデマントイド原石をすべて買い占めてしまいます(ロマノフ王朝が革命で倒れ採掘が停止されるまで)。
不世出の宝石学者にしてコレクターのクンツ博士(1932年没)の薫陶を受けた“ティファニー探索隊”は、未発見宝石を求めてアフリカ大陸東岸ケニアでもう一つの緑色ガーネット「グリーン・グロシュラー」に出会います。前期デマントイドとは異なる深い透明なグリーンは、見方によってはエメラルドに勝ります。発見地「ツァボ野生動物公園」に因んで「ツァボライト」と命名したのはティファニー社。商業名ながらベスト・ネーミングです。

ジェムストーン物語 デマントイドとツァボライト ルース

ガーネットのネックレス 01

PT900 G-0.25ct G-0.50ct D-0.92ct

ガーネットのリング 01

PT900 G-0.200ct G-0.320ct D-0.04ct

デマントイドとツァボライトのジェム・メッセージ

総数16種余の珪酸塩鉱物からなる“大ガーネット・ファミリー”の中で、鮮やかな緑色を発揮する鉱物は金属元素カルシウムを共有するアンドラダイトとグロシュラーの、そのまた「変種」鉱物――前者「デマントイド」と後者「ツァボライト」です。まず、アンドラダイトの結晶形成途上でクロム元素が微量に混入し、光の吸収・反射作用により、独特なグリーンの外見を呈するのが「デマントイド」。この石の屈折率が何故か異様に高く(ダイヤモンド2.42に次ぐ1.88)、反射分散光の強さを示す「分散度」に至っては、全宝石中随一の0.057。“ダイヤモンドのような”という意味のオランダ語に由来する「デマントイド」は、虹色反射光のファイア効果に於いては、ダイヤモンドに勝るとも劣らない宝石だったのです。―――そして今一つの緑色ガーネット「ツァボライト」は、グロシュラーの結晶形成途上で、やはりバナジウムとクロム元素が微量に混入してグリーン発色する変種宝石。その緑色はデマントイドより濃くて深いのに、不思議と透明で内包物や面キズがまったくない。高温加熱や樹脂含浸といった処理加工を一切要さない、原色系宝石の新たな出現に、第一発見者ティファニーは発見地名(ツァボ国立公園)を石名に刻みました。

ガーネットのリング 01
PT900 G-0.180ct D-0.130ct

デマントイドガーネットとダイヤモンドのリング 01
PT900 G-0.37ct D-0.236ct

ツァボライのマザーランド(代表的産地)

アフリカ大陸の最高峰キリマンジェロ火山に抱かれたケニア・タンザニア国境地帯の広大な「ツァボ野生動物国立公園」内にグリーン・グロシュラーすなわち「ツァボライト」の鉱山が点在します。ケニアの砂漠丘陵地帯の首都ナイロビから国内線でインド洋に面したモンバサに飛び、陸路(鉄道)で180キロ北上しツァボ到着。走って来た鉄道の線路を挟むように東西に国立公園が広がり、遥か遠くにキリマンジェロの峰々を見上げる「西ツァボ野生動物公園」内北部の「タイタタベタ鉱山」は、発見地にして現役鉱山です。採掘法は露天掘り及び地下坑道での手掘り或いは機械掘り。地下300メートル掘り下げて水平に掘り進む。時として知らずにタンザニア地下越境も(?)。同鉱山の産出量は現在年産3万カラット。尚、野生動物の密漁で近年悪名高い東西のツァボ公園は、密漁した象の牙(象牙)を抜き取った後の残骸の捨て場になっている不名誉を晴らすのに懸命です。

歴史の中のデマントイド

ロシア・ロマノフ王室の女帝エカテリーナが築いたウラル山麓の保養地エカテリンブルグ。そこから北へ115キロのタージニー・キール村を流れるバルロコフ河の川底から、ひと際緑に輝く石が村人によって発見されます。1853年のことです。ペテルブルグ鉱物協会に持ち込まれたその石は、フィンランド人鉱物学者ニールス・フォン・ノルテンスフェルトNils von Nordensfeldにより「ガーネット族鉱物アンドラダイトが微量のクロム元素を取り込んでグリーン発色する変種鉱物」と判明します(1864年)。更に、異様に強い虹色反射光の“秘密”をその“超絶”屈折率に突きとめたノルテンスフェルトは1878年、この新種宝石を「デマントイドDemantoid」と公式に命名します。「ダイヤモンドのような」という意味のオランダ語を彼が敢えて使ったのは、140年前の当時、ダイヤモンド研磨産業に君臨する都市はニューヨークやテルアビブではなく、ベルギーのアントワープでもなく、オランダのアムステルダムであったことを物語ります。

デマントイドとツァボライトのトリビア

●緑色系の新種が発見される前に付いた和名なのでしょうか? ガーネット宝石をなべて「柘榴石(ざくろいし)と呼んだその「柘榴」とは、一体どんな植物なのでしょう。それは、ザクロ科の落葉高木(こうぼく)で、果実は球形で紅(くれない)色、花は夏だけ咲き色は淡紅色から白。果実は熟すと内側から裂けて多粒状紅色の種子(ラテン語で「Granatusグㇻナトゥス」)となり、このGranatusが転じて「Garnet₌ガーネット」となりました。
●グロシュラーの変種ツァボライトの、そのまた変種と思しき緑が買った青色の石が、マダガスカル・ベキリー鉱山から出ました(1990年)。色が見たこともないブルーであっただけでなく、夜間人工光で何とパープル・カラーに変色します。――推理小説『青いガーネット』を書いた巨匠コナン・ドイルが、この石に出会っていたら、どんなミステリーを書いていたでしょうか。

デマントイド①・ツァボライト②履歴書

鉱物名

①デマントイドDemantoid
②グリーン・グロシュラーGreen Grossular

組成

①カルシウムと鉄の珪酸塩(及び混入遷移元素クロム) Ca3Fe2(SiO4)3
②カルシムとアルミニウムの珪酸塩(及び混入遷移元素クロムとバナジウム) Ca3Al2(SiO4)3

発見地

①ロシア・ウラル山系タージニー・キール村
②ケニア・西ツァボ野生動物国立公

産地

①1991年ソ連崩壊後上記発見地にて採掘再開
②ケニア、タンザニア、マダガスカル、スリランカ

硬度

①6.5~7
②7~7.5

比重

①3.84
②3.61

屈折率

①1.88
②1.74

分散度

①0.057
②0.028

結晶

①②とも等軸晶系

誕生石

①②とも1月

結婚石

①②とも18年目