ペリドット(Peridot)

宇宙の彼方から降ってくる唯一の宝石―――それがペリドットです。太陽系の火星と木星の間にある小惑星同士が衝突して、周囲に無数の岩石破片が砕け散り、そのうち幸運な一つが、地球の重力に引き寄せられて私達の棲む星に飛来します。古くは18世紀の1748年、帝政時代のロシア東シベリアのクラスノヤルスクに落下した680キロの隕石。時のロシア科学アカデミーが調べてみたら、それは「橄欖岩(かんらんがん)を多量に含んだ石鉄(せきてつ)隕石でした。地球中心部のマントル層の主要成分とも共通するこの橄欖岩は、奇しくも「橄欖石」すなわち公式名「オリビン」通俗名「ペリドット」を結晶させる母岩でもありました。―――それから1世紀半の19世紀末、米国ケンタッキー州イーグル・ステーションに落下した隕石の岩塊中に、橄欖石が見つかります。かの鉱物学者G.クンツ博士に見出され、博士の属するティファニー社によって0.42カラットのクッションカットに研磨されたペリドットは、折から「1900パリ万博」に出品されて世界を驚かせます。―――そして、まだ記憶に新しい2013年2月の「チェリャビンスク隕石」。ロシア・チェリャビンスク州の湖に飛来した重さ10トン大きさ5メートル立方の石鉄隕石は、無数の標本に分割されて、東京のミネラル・フェアにもお目見えしました。会場で黒褐色の鉄橄欖石は沢山ありましたが、それと苦土(くど=マグネシウム)橄欖石との混合鉱物である緑色透明のペリドットは、残念ながら見つかりませんでした。

ジェムストーン物語 ペリドット ルース

ペリドットとダイヤモンドのシンプルなリング 01

PT900 Peridot-2.31ct D-0.26ct

ペリドットとダイヤモンドのネックレス 01

PT900 Peridot-4.40ct D-0.17ct

ペリドットのジェムメッセージ

宝石ペリドットの鉱物名は「オリビンOlivine」、和名で「橄欖石(かんらんせき)」。濃緑色の果実「オリーブ」に由来するオリビン=ペリドットは、苦土橄欖石(マグネシウムの珪酸塩結晶=別名「フォルステライト」)及び鉄橄欖石(鉄の珪酸塩結晶=別名「ファイアライト」)の両者が、4:1の比率で混ざり合った混合鉱物(「固溶体」という)です。この宝石の黄色みがかった濃いグリーンカラーは、主成分の一つ鉄元素を巡る光の吸収・反射作用によるものです。ところで、宝石の「色」とは、大方の宝石に於いて、その石の主成分でない“異金属元素”が舞い込んだ結晶への光の吸収反射作用によって、色が“決まる”ものですが(異元素クロムの闖入によって無色コランダムがルビー・レッドに、無色ベリルがエメラルド・グリーンになるように)、ペリドットは外部元素に依存せず、強いグリーンカラーは文字通り“自前”の色という訳です。これを「自色」、ルビーやエメラルド等々の色起源を「他色」と云いますが、主要宝石の中で自色を発揮する宝石は、意外にもあまり例がありません。

ペリドットとダイヤモンドの月ペンダント 01
PT900 Peridot-6.99ct D-0.19ct

ペリドットのマザーランド(代表的産地)

世界総流通量の80%は、米国アリゾナ州産です。18万年前メキシコ国境付近の火山が噴火してマントル層の火山岩が噴出し、オリーブ・グリーンの宝物を、現代の私達にもたらしました。同州中央部サン・カルロス――先住民族インディアン・アパッチ族は、灼熱の砂漠の地面の下から出てくる緑の石が何であるかも判らず、丸くタンブルして糸を通したビーズ・ジュエリーは、伝統的なアリゾナ特産品となりました。1904年、宝石ペリドットとして公式に認知されると、人力に加えて重機・ブルドーザー等も導入されて採掘は産業化され、年産100万カラットを超えます。「ペリドット・メサ」と呼ばれる採掘エリアは、5キロ四方、地下30メートルまでの「漂砂鉱床」。気温が50度まで上がる年央は避けて、採掘は10月から翌年3月まで。闘う相手は暑さだけでなく、血と肉に飢えたブヨの大群と猛毒ガラガラヘビ。どこの鉱山でも、身の危険はつきものですが、地球を相手にする以上、それは「地球掘り」たちの宿命なのでしょうか。

歴史の中のペリドット

豪華絢爛の造形美を謳歌したヨーロッパ19世紀末様式「アール・ヌーボー」の反動として、世紀が代わった20世紀初頭に、主として英仏両国の宝飾界で花開いた「エドワーディアン様式は、フラットな花飾り・リボン模様や渦形装飾に代表される「ガーランドスタイル」(18世紀ルイ15世原案といわれる)を復活させます(カルティエが中心となって)。平板なプラチナ台に小粒ダイヤを多用するガーランドスタイルの重要な色石脇役は、ルビーやエメラルドでなく、黄緑のペリドットであり薄紫のアメシスト、また水中花のようなファイア・オパールでした。地味ながらも味わい深く、しっかり存在感がある半貴石たちが、「オープンワーク」と呼ばれる極度に繊細で精緻な細工を裏から支えました。ビクトリア女王の長男エドワード7世の在位〈1901~1910年〉10年間に、宝飾史的にも絶頂を極めた「エドワーディアン・ジュエリー」は、軌を一にして「ベル・エポック」スタイルを派生させ、その技と意匠が1920年代の「アール・デコ・ムーブメント」につながります。

ペリドットのトリビアから

●ペリドットの学名[オリビン]を和訳して「橄欖(かんらん)石」としたのは、実に迂闊(うかつ)でした。そもそも「オリーブの木」を「橄欖」と訳した植物学者が“まさか”の誤訳だったのです。地中海産モクセイ科「オリーブ」を、同じく濃緑色の実と葉を持つベトナム産カンラン科常緑樹「カナリウムCanarium」と混同した学者が和名「橄欖」を宣言しますが、そこは大植部学会、すぐに誤りは気付かれ、後に訳語は修正されます。そうとも知らない鉱物界では、植物界の“迷訳”に倣って付けた和名「橄欖石」がそのまま温存され、今なお大手を振ってまかり通っています。ついでながら、「ペリドット」の語源は、「貴石」を意味するアラビア語のFaridatだそうですが、確証はありません。

●時として宇宙の彼方から飛来することもあるペリドットですが、遥か昔の1500万年前、チェコのモルダウ河口に落ちた「モルダバイト」も、ペリドットと同じ美しい緑の宝石です。この石は永らく隕石由来とされていましたが、近年“地球由来”と判明しました。落ちて来た小惑星が地殻を抉り、その岩片が成層圏まで舞い上がって急冷され、再び地上に落下するとき高温高圧で加熱されて、万に一つの偶然で奇跡的に美しくグリーンに結晶した、という訳です。隕石(=メテオライト)と明確に区別するため、このような鉱物を「テクタイト」と呼びます。ケンタッキーで見つかったペリドットは、正真正銘のメテオライトだった訳です。

ペリドット履歴書

鉱物名

オリビン Olivine

和名

橄欖石(かんらんせき)

組成

マグネシウムと鉄の珪酸塩鉱物
(Mg,Fe)2SiO4

発見地

セントジョンズ島(紅海)

産地

米国アリゾナ州

硬度

6.5~7

比重

3.27~3.48

屈折率

1.654~1.690

結晶

斜方晶系

誕生石

8月