アクアマリン(Aquamarine)

アクアマリンの「ブルー」の在り処(ありか)を真実の海に探し求めて、九州最南端の奄美までやって来ました。鹿児島から島伝いに奄美群島北端喜界島(きかいじま)の七海鼻――水平線に昇る朝日は、奄美指折りの絶景。黄金色の日輪が水平線上に昇り切る頃、朝靄とせめぎ合う海の色は青ならぬ優し気なブルーグリーン。奄美の海は意外にもまずナチュラル(つまり非加熱)アクアマリンそのものの淡緑色を示してくれました。喜界島で日の出を拝んだ後、対岸の奄美大島南岸の住川湾へ。群島最大の島の豊かな森林部から川を伝って海に流れ出た淡水と海水が混ざり合う汽水域。限りなく澄み切った空の青が、そこでは海と一体となって、見たことのないような「青」が瞼に焼き付きます。
奄美大島南西端まで来ると、沖合に加計呂麻島(かけろましま)が見えてきます。その島との間の海峡の水深が実に深く、あの巨大な戦艦武蔵や大和も敵に隠れて呑の浦(のみのうら)の入江に停泊したと云います。吸い込まれんばかりの深い青色でした。秘密基地でもあった呑の浦から人間魚雷で出撃待ちの特攻兵として、この島に駐留中終戦を迎えた作家島尾敏雄は、島から眺める海の美しさにすっかり魅せられて、そのまま加計呂麻に移り住みます。島尾は、奄美群島を古代日本列島と見立てた空想上の理想郷「ヤパネシア」を代表作『死の棘』他に度々登場させています。これも形を変えた奄美の“自然遺産”に違いありません。

トップジェムクオリティ-アクアマリン-ハナジマの宝石

アクアマリンのジェム・メッセージ

宝石アクアマリンの鉱物名はベリルです。エメラルドの鉱物名もベリル。ベリリウムとアルミニウムの珪酸塩鉱物は、純粋結晶の状態では無色透明ですが、結晶生成時に外部からごく微量の鉄元素を取り込むと、結晶は青緑系に発色し、また、それがクロム元素の場合は緑色を発し、前者はアクアマリン、後者はエメラルドと定められます。べリル鉱物がクロム元素と出会ってエメラルドとなる確率よりも遥かに緩やかな確率で鉄分と出会って産まれるアクアマリンは、世界5大陸から安定産出する本格派大衆宝石ながら、しっかり準5大高級石の位置は確保します。採掘時直後のアクアマリンは薄緑色半透明原石が大半で、そのため色と透明度を改善する低温加熱処理(原石の入ったルツボを電気炉内で400~600℃加熱)を通常施して、本来あるべき「青色透明石」の姿に改善します。―――では、アクアマリンに於いて「グリーン」や「不透明」が、本当に価値の妨げなのでしょうか? 宝石名「アクアマリンAQUA・MARINE」の意味を今一度考えてみて下さい。それはラテン語で「海の水」、つまり「海の水の色の宝石」のことで、すなわち、それは「青」だけでなく青緑、深緑、薄緑、安淡緑、草緑、スモーキーグリーン等々、海の色は緑系だけでもかくも雄弁であるように、アクアマリンの色の表情も多彩であっていい筈です。そして、「石」の佇まいも四角張ったファセット・カットでなく、自在なカボションにカットしたストーン:ジュエリーこそアクアマリンの隠れ業なのです。
尚、申し遅れましたが、marine blue(海の青)という語彙表現は、英語界に存在しません。

アクアマリンのマザーランド(代表的産地)

アクアマリンは実にグローバルな宝石です。産出しない大陸はないというくらい、良質の結晶体が世界各地に産します。海の水の色の宝石アクアマリンの最初の商業採掘地は、海のないブラジル内陸部ミナスジェライス州サンタマリア鉱山。19世紀末パリの宝石商ジョルジュ・フーケG.Fouquetの目に留まり、各種ジュエリーに製品化されてパリ万博にも出品。採掘熱も一気に高まり、同州マラバヤ鉱山から史上最大の110kg 長辺48cmという原石が出ます(1910年)。この宝石が母岩としているペグマタイト(花崗岩)を地層に抱える諸大陸諸地域から算出する多国籍宝石アクアマリンのうち、特にマダガスカル、タンザニア等のアフリカ産良質原石のことを何故か「サンタマリア・アフリカーナ」と呼ぶ習慣があります。発祥地ブラジルへのオマージュでしょうか。

歴史の中のアクアマリン

頭上にアクアマリンが君臨する歴史的に名高いティアラが2点あります。まず「ジョルジュ・フーケ製アクアマリン・バンドー」。前項でも登場したパリ・ベルエポック期の宝石商フーケパリ万博出品のため1910年制作したこの帯状ティアラ(=バンドー)は、サンタマリア産アクアマリンのエメラルド・カット6ピースを金台パヴェセット・ダイヤモンドとプリカジュール・エナメルの板状帯で繋いだもので、本作を皮切りにフーケは多くのアクアマリン・ジュエリーを制作し(その全点にサインを刻印)欧州宝飾界で「アクアマリンの父」と呼ばれるに至りました。
次なる珠玉の逸品は「スペイン王妃ビクトリア・エウヘニアのアクアマリンとダイヤモンドのティアラ」。20世紀前半のスペイン国王アルフォンソ13世が宮廷宝飾師アンソレナに作らせて王妃ビクトリア・エウヘニア(英国ビクトリア女王の孫娘)に贈ったティアラです。ガーランド・スタイル(花と葉の連続模様)のオープン・ワーク(透かし細工)で、贈られた当初素材はダイヤモンド(パヴェ留め)と大粒南洋真珠であったのが、王妃のわがままで南洋真珠7ピースをすべて大粒アクアマリン7ピースに作り替えさせたのです。王妃に愛されたアクアマリンは宝石冥利に尽きたことでしょう。この二つのティアラ名品に輝く2種類のアクアマリンは、奇しくも青と淡い緑それぞれ独自の美しさに溢れ、前者は深く澄んだダーク・ブルーのシャープなエメラルド・カット、後者はメロウ・グリーン半透明のオーバル・カボション・カット。共に来日展歴があり、前者は福岡在住のあるコレクター所蔵品です。

アクアマリンのトリビア

●AquamarineのAquaは「アクア」か「アクワ」か? 実は両論あります。広辞苑的には「アクア」、ところが肝心の宝石鑑別書では「アクワ」が根強い。Diamondに於けるダイヤかダイアか問題同様、聴こえ方は人それぞれ。両方とも正解です。

●あの西郷隆盛が流された奄美群島徳之島では、アクアマリンとは真逆のべリル宝石に出会えます。東シナ海の水平線に沈む日没の太陽の赤。まさしくレッド・べリルの赤なのです。限定30分の大自然ショーです。

アクアマリン履歴書

鉱物名

べリル

組成

ベリリウムとアルミニウムの珪酸塩鉱物

硬度

7.5~8

比重

2.72

屈折率

1.577~1.583

分散度

0.014

結晶

結晶系六方晶系・六角柱状

誕生石

3月

僅か1%、世界最上級の厳選カラーストーン

ハナジマでは、取り扱う厳選したカラーストーンの実に90%が下の図のピラミッドの頂点に位置する僅か1%の最上級クラス「トップ・オブ・ジェムクオリティ」です。色の濃さは4~6ランク、透明度と輝きはSランク(下図を参照)のこだわった宝石です。
残り10%の取り扱う宝石は厳格な品質基準に合格した「ジュエリークオリティ」になります(下の図の灰色の部分)。

100分の1個の希少石でありながら、日本最大級のストック量を誇ります。
下の図は品質を表す1つの例であり、取り扱う宝石の全ての種類に該当します。

ハナジマの宝石は、9割が最上級クラスで、1割が一般クラス

エメラルドを例とした品質チャートとハナジマが取り扱う品質 PC用

エメラルドを例とした品質チャートとハナジマが取り扱う品質 モバイル用

 

アクアマリンの作品

【 知的ジェムストーン物語 】
~ あたなの価値観を変える宝石の知識 ~

主に地球で育まれた天然鉱物である宝石のことを知ることでもっと身近に感じてほしい、また別の宝石にも興味を持ってほしい、そんな思いからシリーズとして書いております。引き続きシリーズを追加していきます。どうぞよろしくお願いいたします。

少々難しい部分もあると思いますが、そこを乗り越えて読み進んでいただき、美しい宝石の真実の姿を「知る面白さ」、「学ぶ楽しさ」を改めて体感して頂ければ幸いです。

「知的ジェムストーン物語」、下の画像をクリックすることで各ジェムストーンのページをご覧いただけます。どうぞお楽しみください。