グリーントルマリン(Green Tourmaline)

標本石にしかならなかった鉱物トルマリンに、宝石質の、しかも緑や赤、青のカラー・ジェムが出現したのは、地中海イタリアのリゾート地エルバ島、時に1825年のことでした。あのフィレンツェの銀行家メディチ家が領有したこともある温泉保養地エルバ島は、ルネサンス運動発祥地の一つピサの沖合に浮かぶトスカーナ諸島最大の島。東西35キロ余の西半分が花崗岩で覆われたペグマタイト鉱床で、教会堂の建つサン・ピエロ・イン・カンポの町から僅か15キロの丘の晶洞で見たこともないパステル・グリーンの新種トルマリンが見つかりました。従来のマグネシウムやアルミニウムに依存しないリチウム起源のリシア・トルマリンと判明したその石は、発見地に因んで「トルマリン族エルバイト」なる公式名が付きました。―――よく知られる通り、このエルバ島は世界史的にも、フランスの皇帝ナポレオンが対プロイセン戦に敗れて帝位を退き、温泉でしばし身体を休めて再起を誓った、という由緒ある島です。無類の宝石好きだったナポレオンは、残念ながら、タッチの差でこのグリーン・ジェム発見には立ち会えませんでした。

ジェムストーン物語 グリーントルマリン ルース

グリーントルマリンとダイヤモンドのリング 01

PT900 T-6.94ct D-0.18ct

トルマリンとダイヤモンドのペンダント01

PT900 T-4.133ct D-0.25ct

グリーントルマリンのジェム・メッセージ

ホウ素(硼素)を取り込んだ珪酸という大変珍しい硼珪酸塩基に12種の金属元素が絡む鉱物集団「トルマリン族」は、名前の付いた変種だけでも実に16ものバリエーションを誇ります。それらの石は鉱物学標本(教材)或いは収集用が主流で、宝石質原色透明石と云えば、トルマリン族ではリチウム起源リシア・トルマリンの「エルバイト」に限られます。中でも際立って鮮やかな3色は、赤の「ルべライト」、青の「パライバ・トルマリン」、そして緑の「グリーン・トルマリン」です。さて、グリーン・トルマリンの緑のカラクリは一体何でしょう。リチウムに並ぶエルバイト主成分の鉄分が特に強いトルマリン結晶は、光の吸収反射作用でパステル・グリーン或いはブルーイッシュ・グリーンに色付きます。結晶の潜在的な黒みや褐色の濁りは、焼鈍し(やきなまし)加工により除去します。650℃の低温加熱と冷却を繰り返してくっきり透明になりますが、この低温加熱による鉱物素材の劣化は、まったく心配ありません。また、この時の加熱加工で、トルマリン結晶は何故か静電気を帯電し、結晶面の両端が+極と-極に分極します。この宝石の和名[電気石(でんきせき)]の由来源ともなっているこのユニークな帯電性は、残念ながら石の美しさには何ら貢献していないようです。
宝石質のトルマリンは、単に色の鮮やかさだけにとどまらない“変わり種”が存在感を放っています。その筆頭格は、まるで二つの石を上下に或いは左右につなぎ合わせたような、緑と赤の「バイカラー・トルマリン」。これは、同一鉱物内で鉄分優位の部分(緑)とマンガン優位の部分(赤)とが別々に結晶した珍現象なのでしょうか。また同じ二色でも、緑とピンクが同心円状に結晶したのが、見るからに美味そうな「ウォーターメロン・トルマリン」。更に、クロム元素を取り込んだクロム・トルマリンは、時として自然光と人工光で色が変る「トルマリン・カラーチェンジ」に。そして極めつけは、石内部に潜む内包物と光が特殊なシャトヤンシー効果を演ずる「トルマリン・キャッツアイ」。間口の広さと同時に、この石の奥深さを思い知らされます。

グリーントルマリンとダイヤモンドのリング01

PT900 T-2.45ct D-0.46ct

ジェムストーン物語 バイカラ―トルマリン ルース

グリーントルマリンのマザーランド(産地)

トルマリン鉱物群に宝石品質のエルバイトがある、と判明する以前から、南米ブラジルのミナス・ジェライス州はトルマリンの宝庫でした。東はリオ・デジャネイロ州、西北はゴイア州とバイア州、そして南はサンパウロ州に囲まれた内陸ミナス・ジェライス州の北東部は、広大な花崗岩ペグマタイト鉱床地帯が広がり、有望なトルマリン鉱山が点在します。まずリオから国内線で北へ約400キロの同州中心都市ベロ・オリゾンテへ。そこから北東へ200キロのコベルナドール・バラダレス周辺一帯が漂砂鉱床地帯。ところどころに間口3メートルほどの晶洞の痕跡が残されていて、その内壁には真っ白なリシア雲母に混じって、褐色の水晶や曽長石等の群晶が時折見出せます。この域内で現役のトルマリン鉱山は、クルゼイロ鉱山(今なお露天掘り)、サンタローザ鉱山それにイタチャイア鉱山。各鉱山から採掘されたトルマリン原石は、すべてサンタローザ鉱山から北西へ50キロほどの研磨加工地テオフィル・オトーニに送られます。ミナス・ジェライス州の州都でもある同地には、世界各地から買付け業者が集結し、加工地として卓越した研磨職人も4000名を数えます。カッティング・センスが石の価値を左右するトルマリンの世界では、カッターの「技」が、もう一つの宝なのです。

歴史の中のグリーントルマリン

ブラジル・ミナス・ジェライス州の花崗岩ペグマタイト鉱床から、マグネシウム起源のトルマリン鉱物「ドラバイト」が初めて出て来たのは、大陸発見から間もない1674年のことですが、当初鉱床探索はトルマリンよりも、その副産物の雲母、石英、銀などの鉱業が主流でした。コベルナドール・バラダレス地区に「トルマリン・ラッシュ」が起きるのは、1914年サンタローザ鉱山からリチウム起源トルマリンの「エルバイト」が掘り出されてからです。その立役者となったのは、実は欧州ドイツから移民としてミナス・ジェライスにやって来たㇻピダリー(研磨職人)たちでした。パステル・カラーの美しい貴石素材に出会ってその「巧み」を競い合った彼らは、成功して故郷北ドイツ・イダー・オーバーシュタインIdar Obersteinに技術ごと持ち帰り、以後同地は、貴石研磨を地場産業とする世界有数の都市となっています。そして1966年、閉山していたクルゼイロ鉱山からエルバイト系の赤いトルマリン「ルべライト」が出て来て、「貴石大国ブラジル」が本格始動しました。

グリーントルマリンのトリビア

●鉱物名トルマリンの原名「トルマリTurmali」は、主産地ブラジルの現地語ポルトガル語ではなく、数ある産地の一つスリランカの現地語シンハリ語で、名付け親はこの石を初めて欧州に持ち込んだオランダ人。「トルマリ」がスリランカで何を意味するか、今もって不明のようです。
●トルマリンは記録的な鉱物です。合計17の元素が複雑に絡み合う貴石の集合体で、結晶の種類は実に14種を超えます。どの結晶にも成分参加するホウ素(ボロン)は、貴重な“隠し味”。

グリーントルマリン履歴書

鉱物名

トルマリンTourmaline

和名

電気石(でんきせき)

組成

リチウム・マグネシウムとカルシウム・カリウム・ナトリウムと鉄・アルミニウム・クロム・バナジウムの硼酸塩・珪酸塩鉱物
(Li,Mg,Mn)(Ca,K,Na)(Al,Cr,Fe,V)(BO3)3(SiO3)6(OH,F)

産地

ブラジル・ミナス・ジェライス州

硬度

7~7.5

比重

3.06

屈折率

1.624~1.644

結晶

結晶六方晶系

誕生石

10月