イエロージルコン(Yellow Zircon)

花の名前がそのまま宝石名になった珍しい宝石ジルコン。
和名の「風信子石」は「ヒヤシンス石」と読み、外国でも宝石「ヒヤシンスHyacinth」と云えば最終的にジルコンのことです。

色の多彩さを誇るヒヤシンスの花のように、ジルコンも負けずに七色の輝きを演じてくれます。
これがヒヤシンスの色、という花としてのキーカラーがないように宝石ヒヤシンス=ジルコンにも特に決め手の色はありません。

かつてオスマントルコ帝国が、15世紀の地中海・ヨーロッパ世界に初めてヒヤシンスの花をもたらした時、その花は美しい黄色と青色だったようです。
その後品種改良が繰り返されて、今日ではあらゆる色のヒヤシンスが楽しめるように宝石ジルコンも加工法の進展により様々な色が競い合います。
中でも、イエローとブルーのジルコンが一際美しいのは、原風景の花の色の気憶からでしょうか。

イエロージルコン ルース トップ画像

イエロージルコンのジェムメッセージ

ジルコニウムの珪酸塩鉱物という判り易い化学組成ですが、一癖も二癖もある奥の深い宝石です。
ジルコンと云えばダイヤモンドの影武者と無色透明石を連想しがちですが、どっこい立派なカラーストーンなのです。

褐色、黄色、オレンジ、赤色、赤褐色、緑色、そして青色、白色、無色・・・・
これだけ豊かな色を誇りますが、惜しいかな殆どが褐色がかって色がくすみ、鮮やかなジルコン透明石は頗る稀少と云わねばなりません。

色の透明性を確保するため、褐色みの強いジルコンには基本的に加熱処理が施されます。
理論上無色透明の純粋ジルコンも、現実の無色ジルコンはほぼすべて加熱処理石。
また人気の「青色」は加熱によって出現した色であって、皮肉にもナチュラルジルコンの色には存在しないのです。

そして各色の色起源は、簡単に特定できるものでもないようです。
ジルコンという宝石は、ごく微量の放射性元素(ウラニウム、トリウム等)を含むため、その放射線の影響下で結晶格子に歪み、欠陥等の異変を生じ、そこに光が作用して各色の原因になると考えられています。
更には、技術的に加熱法を使い分けることにより、褐色系からゴールデン系(酸化状態)に或いはブルー系(還元状態)に変るように、色が演出さていることも事実です。

その放射線の量は幸いにも人体に有害な量ではありませんが、それでも地質学的な時間経過(つまり何万年単位?)で結晶格子そのものを徐々に”自己破壊”し遠い先の最終段階では原子配列の不規則な「非晶質」物質と相成ります(これを「メタミクト」現象と云います)。
その破壊の度合の早い順に「ロータイプ」~「ハイタイプ」と分類されますが、破壊のより早いロータイプ石は比重値・屈折率共にハイタイプ石より低く何より硬さに劣り、エッジが擦れ易く脆いのはいただけません(硬度:ハイタイプ7.5、ロ-タイプ6.5)。

多彩なジルコンの色選びは、以上のような理屈から、まず透明でハイタイプのイエロージルコンが一押し、次にレッドジルコン(ハイタイプ)、加熱石と知った上ならブルージルコン(ハイタイプ)、またどうしても緑が好きという人は、ロータイプ・加熱石と知った上でグリーンジルコンなどいかがでしょうか。

イエロージルコンのマザーランド(代表的産地)

宝石「ヒヤシンス」にまつわる逸話は古来より少なくないのですが、その中で明確に「ジルコン」を指している例証や確証が極めて乏しいため、ジルコンの発見地・採掘発祥地、年代などはどうにも特定できません。
そこで近代から現代までの商業的採掘地を列挙します。
―――タイ、スリランカ、カンボジア、ミャンマー、パキスタン等々

歴史の中のイエロージルコン

ジルコンが歴史の舞台に登場するのは、19世紀英国ヴィクトリア女王期です。
産業革命により宝飾品が市民の購買対象となり、ダイヤモンドの代用品として高屈折率を誇るホワイトジルコンが注目されます。
ここで見落とせないのは、1800年代、既にジルコンは加熱処理されていたこと。
無色透明ジルコンは、昔も今も実は加熱処理されていたのです。
第一、「ジルコン」の石名由来にもなっている「金色の石」こと”ゴールデンジルコン”なるものもナチュラルでは存在せず、加熱処理の”賜物”に他なりません。
そして同じくナチュラルでは存在しない、今一番人気の「ブルージルコン」に至ってはレアジェムの頂点「ファンシーブルーダイヤモンド」の代用品として”スターライト”の商業名の下に大注目を集めました(命名者は米ティファニー社顧問のクンツ博士) 。

イエロージルコン ルース1 イエロージルコン ルース3

イエロージルコンのトリビアから

■花の名「ヒヤシンス」はギリシャ神話から発しています。
太陽の神アポロンは紅顔の美少年ヒヤキントスを溺愛しますが、それに嫉妬した風の神ゼピュロスがある悪意を企みます。
当時の高貴なスポーツ 円盤投げゲームに興ずるアポロンと少年の頭上に持ち前の強い西風を吹かしアポロンが投げた円盤がヒヤキントスの額を直撃してしまいます。
絶命した少年の血は大地に流れ草に染み込み、そして咲かせた花がヒヤシンスだったのです。
15世紀地中海地方原産のユリ科植物なのに何故ギリシャ神話に? と訊かれても困りますがそれはさておき、その時の花の色はどんな色だったのでしょうか?
土や草を血の赤で染めても、咲いた花まで赤だったとは考えにくいと思いますが・・・・

■宝石名「ヒヤシンス」がイコール「ジルコン」と定まる19世紀末頃まで他に「ヒヤシンス」を名乗る宝石は実に多様でした。
―――まずヘソナイトガーネット、オレンジサファイア、そしてOHタイプ・トパーズ
更に赤褐色系の石英等々。
レディッシュオレンジの色みを共有するこれらの石たちは、その後宝石学の進展に伴い然るべき正しい呼称に収まります。
結局早くからヒヤシンスを名乗った「ジルコン」が最後まで残り、ようやく「ヒヤシンス」の名を一人占めできるようになりました。

■珪酸塩鉱物ジルコンから珪素(Si)を取り去ったのが、ジルコンとは似て非なるあの「ジルコニア」(ZrO2)、商業名キュービックジルコニア。
かつてのダイヤモンドの代用品ホワイトジルコンに取って代った生粋の人工宝石です。
本家ジルコンと違いコワ~い放射性特性もなく、今や通販テレショップの”隠れ”女王アイテムです。

イエロージルコン履歴書

鉱物名

ジルコン Zircon

和名

風信子石 (ひやしんすせき)

石名由来

アラビア語で「貴金」を意味するzarと「色」を意味するgunより。
ただしzirconを”ジルコン”と読むのはこの日本のみで、国際的には”ザーコン”と発音しないと通じないので要注意!

組成

ジルコニウムの珪酸塩ZrSiO4

発見地

タイ、スリランカ、ミャンマー周辺と思われる

硬度

7.5(hi-type) 6.5(low-type)

比重

4.6~4.7(hi-type) 3.9~4.1(low-type)

屈折率

1.93~1.98(hi-type) 1.78~1.82(low-type)

複屈折

0.059(hi-typeダブリング現象大)

分散度

0.039(hi-typeのみ)

結晶

正方晶系

誕生石

12月(米国)

石言葉

Mental Liberation (精神の解放)

その他

午後1時の宝石