サファイア(Sapphire)

 2000年以上も前に書かれた「聖書」にも登場する宝石「サファイア」の公式デビューは、実はずっと現代に近く、革命後のフランスでした。19世紀初頭まで「青色を呈する貴石・半貴石」の総称名だった「サファイア」の代表格は、永らくあの「ラピスラズリ」だったようです。当時世界の科学界を先導したフランス科学アカデミーの結晶学者が、初めて「宝石サファイア」を鉱物学的に特定しています。つまり、コランダムというアルミニウム酸化鉱物として花崗岩中に存在し、その結晶過程で金属元素チタンが微量に混入した時だけ、結晶が鮮やかな濃青色を帯びる―――これが宝石ブルー・サファイアの正体です。「ブルー・サファイア」と一般呼称されるのは、ブルーでないサファイアが色とりどり、いっぱしの色石のように、存在するからです。

 この「サファイアの鉱物デビュー」を知ったオーストリアの鉱物学者モースは、標準宝石の「水晶」を凌ぐ硬い石の出現はあのダイヤモンド以来だ、と驚嘆します。1830年、博士がこの石に与えた「スクラッチ硬度9」の格付けは、サファイアの比類なき耐久性を裏付けることになり、名実共にこの宝石をカラード・ストーンの王座の一角に押し上げて来ました。

サファイアとダイヤモンドのプラチナリング

サファイアとダイヤモンドのプラチナリング

PT900 S-2.19ct D-0.27ct

PT900 S-1.13ct D-0.14ct

サファイアのジェムメッセージ

ブルー・サファイア秀逸の色と云えば、インド・カシミール産サファイアの「コーンフラワー・ブルー」カラーです。限りなく深く、限りなく濃く、そして限りなく明るい青色の由来源となっているコ―ンフラワーCornflower(矢車菊)とは、一体どんな花なんでしょうか。キク科の1年草で、背丈は約40センチ。葉と茎は白いうぶ毛で覆われ、夏だけ咲く花の色合いは濃青色だけでなく、何とピンクや紅色に咲く品種もあるそうです(主産地は北ドイツ)。また、よく混同される「矢車草」は英名でRodgersia、ユキノシタ科多年草、背丈約1メートルで、花の色は白。まったく別の植物です。矢車菊を実際見た人が殆どいないためでしょうか、「コーンフラワー・ブルー」の色の記憶はいつしか神格化され、“カシミール産絶滅説”も相まって、いま世界の宝石界では、「入手不能カシミール・サファイア伝説」となっています。

現在流通しているサファイアの大半は、「加熱処理」という人の手が入って、そのカラーと透明度が確保されています。サファイアの融点ぎりぎりの1800度で長時間の高温加熱処理を経て、より透明でビロードのようなヴェルヴェティ・ブルーを実現しています。近年、処理技術はますます先鋭化・高度化し、「表面拡散加熱処理サファイア」なる新顔も登場します。ベリリウム等の異金属元素を物理的に加熱ルツボ内で取り込んで、石表面をリム状にコーティングするように石を生れ替えらせる。ある種の“宝石再結晶”加工技術とも云えそうな表面拡散処理サファイアの出現は、世界の宝石界を驚かせました。

もとより、天然ブルー・サファイアに付きものの内包物はルチル(酸化チタン)です。石の中にシルキーな光の束を演出し、石を丸くカボションに研磨すると、時として光の束が六方星型にくっきりと浮かび上がります(アステリズム効果)。「スター・サファイア」は、他のカラー・サファイアには見られないブルー・サファイアだけの得意技です。

サファイアとダイヤモンドのプラチナリング
PT900 S-1.06ct D-0.15ct

サファイアとダイヤモンドのネックレス 01
PT900 S-1.0ct D-0.21ct

サファイアのマザーランド(代表的産地)

“神々が舞い降りた国”スリランカがサファイアを産み出した聖地です。北海道ほどの広さしかないこの島の南西部丘陵地帯を覆う花崗岩が、その鉱物を育んで地中深く堆積させ、丘陵地帯南端のラトナプラ地方に「漂砂鉱床」を形成させたのは、古代ヒンドゥー時代に先住民族が築いた人造湖とそれを水源とする河川によるものとされています。ラトナプラの水田地帯、地下10メートルの地層(土地の人は「イラム」と呼ぶ)に鉱床が点在し、そこに井戸を掘り、手掘りした鉱石を人力で地上に上げる。水田や紅茶畑が無秩序に広がる荒漠とした農地のあちらこちらに、イラム(鉱床)まで掘り下げた井戸の坑口や採掘残土のボタ山、それらを見張る櫓(やぐら)などが見渡せる・・・・。まことに珍しい鉱山風景なのです。

歴史の中のサファイア

同じコランダム族ルビーの産地として知られるミャンマー・モゴクから掘り出された特大ブルー・サファイア98.6カラット。同地を植民地支配する英国の宝石商ストリーター商会からその石を買い付けたのはパリのカルティエ、時に1935年。同社はそれをクッション・カットに仕上げ、ルースのままモナ・フォン・ビスマルク伯爵夫人に納めます。ドイツの前身プロイセンの“鉄血宰相”オットー・フォン・ビスマルクの子息夫人です。訳あって同家を離れ(宝石は置いたまま)米国人資産家と再婚しますが、その米国人とも死別し、結局元の伯爵夫人に戻ります。サファイアが呼び戻したのでしょうか。ビスマルク伯爵は再会を祝って、そのサファイアとダイヤモンドのプラチナ・ネックレスをカルティエに作らせます。この逸品はその後、米国ワシントンDCのスミソニアン研究所に寄贈、永久保存されています。

サファイアのトリビアから

サファイアの妹みたいな宝石があります。その名もかわいらしい「サファリン」。英名はSapphireならぬSapphirine。藍より青いその色は、強いインク・ブルー。主成分(アルミニウム〉も産地(スリランカ)もサファイアと共有するのに、宝石起源はまったく無関係。ご興味あれば、ミネラル・ショーで探してみて下さい。

パパラチャサファイア履歴書

鉱物名

コランダム Corundam

和名

青玉

組成

酸化アルミニウムAl2O3

発見地

スリランカ

硬度

9

比重

4.00

結晶

六方晶系

結婚石

23年記念石

誕生石

9月