エメラルド(Emerald)

グリーンジェムの世界に君臨するエメラルド――目に沁み入るそのグリーンカラーは、ただ自然光の下で美しいだけではありません。静謐な夜の薄明かりの中でこそ、息を呑む不思議な美しさを発揮してくれます。宝石の色とは本来「光」が演じてくれるものなのに、エメラルドのグリーンは、それ自身が光源であるかのような、心地よい”美的錯覚”を起こさせます。

様々な岩石の変遷と共に成長したエメラルド結晶は、生まれながらにして液体・気体を数多く石の中に宿します。このことをとても詩的に「石の中に庭(ジャルダン)がある」、と表現したフランス人科学者がいました。太古の液体や気泡を閉じ込めたエメラルドを、奥深く顕微鏡でじっくり眺めていると、遥か億年前の地球の歴史が見えて来るようです。

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PT E-1.307ct D-0.620ct
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E-1.460ct D-1.450ct

エメラルドのジェムメッセージ

ベリリウムを主成分とするアルミニウム珪酸塩鉱物の総称「ベリル」――そのベリルグループを率いるのがエメラルドです(本講座では「レッドベリル」に次ぐ2番目のベリル宝石)。
グループの王座というよりも全カラーストーンの王座を赤のルビーと競い合うほどの、まさに別格の緑の宝石です。

エメラルドの結晶誕生までには、実に波乱の連続です。 ――ベリリウム系鉱物は、通常花崗岩起源のペグマタイトには産出しにくいのに岩石に含まれる熱水が作用してベリリウムの成分濃度が凝縮され、時には巨大なベリル結晶さえ産み出されます。

次に、エメラルド・グリーンの色原因であるクロム元素も、理論的にはベリル鉱物内には混入しない筈なのに、現実にクロムはベリル内に入り込んで、こうしてエメラルドはしっかり存在しています。
この”謎”を解いてくれるのは、大規模な地殻変動という物理的な理屈です。
つまり、ベリリウムを含んだ熱水鉱脈が、大規模な大陸プレート移動のエネルギーで、石灰岩質の塩基性岩盤に”貫入”し、熱水脈を通じて運ばれたクロム分とベリルが出会い、こうして鉱脈の空隙部分にエメラルドとして結晶する訳です。

大陸の衝突によって出来たエメラルドの主産地、南米コロンビアやブラジルの山岳地帯(アンデス山系)は、かつて海の底だった証拠に炭素分に富む頁岩や石灰岩でした。
その”衝突”は、クロムという嬉しい贈り物をもたらしますが、それは同時に結晶に亀裂や三相インクルージョン(固体・液体・気体内包物)等の有難くないオミヤゲ付きでした。
エメラルドにとっては宿命的な「キズ」と称するものです。

そのキズを人々は忌み嫌って、オイルや樹脂の含浸でひたすら隠そうとして来たのが今日までのエメラルドビジネスです。
しかし翻って、それを「キズ」と呼ばず、個々のエメラルドが持つ「美しい個性」と捉え直しては如何なものでしょうか。
よほど深いヒビ割れや、美しさを損なうほどの大きな内包物は別として、耐久性に問題ない限りは、敢えて石の中にその「個性」を温存してそれを味わい愛でるのが、これからのエメラルドの楽しみ方です。
数億年前の地球の壮大な出来事を目の当たりにできるのは、エメラルドならではのものです。

エメラルドのマザーランド(代表的産地)

世界最古のエメラルド鉱山は、紀元前20世紀 今から4000年前 古代エジプト時代のエジプト・ ルクソールに作られた「クレオパトラ・エメラルド鉱山」。
ファラオの栄華を偲ぶ古代遺跡群が居並ぶルクソールの東南東100km、紅海沿岸の山間部です。
20キロ四方に数箇所の鉱区があり、実に中世13世紀頃までの3000年間余 大規模商業採掘が行われていました。
――以後、バクトリア地方(BC3世紀、現アフガニスタン付近)
そして今日の最大産地・南米コロンビア(10世紀) ブラジル、オーストリア(18世紀)、20世紀に入ってアフリカ諸国ザンビア、ジンバブエ、タンザニア、マダガスカルと続きます。

歴史の中のエメラルド

上述の通り、エメラルドは広く世界各地で掘られ続けて来た歴史がありますが、特上のエメラルドはコロンビア・ムゾー産が突出します。
このコロンビア産宝石が世界史の重要局面に度々登場し、君主たちの征服欲に一役買って来たのも、ひとえにムゾーエメラルドの美的資産価値の威力に他なりません。

コロンビアのチボール地方とその北方ムゾー地方で、先住民族インディオのムゾー族がエメラルド鉱脈を発見し、採掘を初めたのは10世紀。
その6世紀後の1537年、当時の覇権国スペインが黄金郷(エルドラド)を求めて南米大陸に上陸。

その時の思わぬ発見がムゾー族のこのエメラルド鉱山でした。
大国スペインはムゾー族との熾烈なゲリラ戦を制し、執念で鉱山を強奪します。
――エメラルド交易による富を手にしたスペイン(フェリペ2世の治世)は、覇者としてアメリカ大陸発見等の植民地政策で繁栄を謳歌しますが、やがて王権は衰退し、東の脅威オスマントルコ帝国のスルタンや、更に東のムガール帝国のマハラジャたちに、貴重なエメラルドの逸品の大半を差し出すことになります。

スペイン植民地から独立したコロンビアでは、その後もエメラルド採掘は続きます。
同国政府は20世紀初頭エメラルド鉱山事業の国有化を進め、1946年には国立の中央銀行管理となりますが、汚職多発状況下の国営事業は赤字続きで、1980年”コロンビアエメラルドの父”と慕われたヴィクトール・カランサの手によって民営化されました。
しかし、相変わらずマフィアやテロ組織が暗躍するコロンビアでの鉱山事業は安定せず、徐々にその指導権は同国最大のマフィア「メデジンカルテル」の手中に移って行きます。
その後同地エメラルド界には平和が訪れますが、その詳細は後続「トリビア」欄をご参照下さい。

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E-1.250ct D-1.370ct
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PT E-1.930ct D-0.560ct

エメラルドのトリビアから

■(前段より続き)マフィア組織メデジンカルテルのナンバー2ロドリゲス・ガチャのエメラルドビジネス参入の動機は、”ダーティーな麻薬取引よりスマートなエメラルドを”というものでした。
参入を宣言したガチャのやり口は、ムゾー近隣のコスケス鉱山主の暗殺に始まり、先述のカランサの部下・家族の皆殺し殺戮(カランサ本人は避難)、他鉱山の無差別爆破等々、双方の死者3,000人を越える、まさに戦争さながらの惨劇でした(ハリソンフォード主演の映画「今そこにある危機」でも、その時の状況が生々しく描かれています)。
――たまりかねた政府・麻薬取締り特殊部隊が銃撃戦の末、首謀者ガチャを射殺、マフィアのドンのエスコパルを逮捕し、1990年7月ようやくコロンビアに平和の日々が訪れました。
思えば、スペインの上陸・略奪以来4世紀に亘る“血塗られたコロンビア・エメラルドの歴史”に終止符が打たれたのです。

■同じ宝石でも産地・鉱山ごとに固有の持ち味があるのが宝石の魅力です。
その産地特性に際立った地域差を見せるのがエメラルドです。
まずそのグリーンの色み、色の濃淡・透明性、結晶の形(なり)から来るカットの理想形内包物等の要素はエメラルドの美しさを語る上で欠かせないものです。
以下の表をご参照下さい。

産地国・鉱山 色み・特徴 難点 最適カット形状 代表的インクル-ジョン
コロンビア・ムゾー 黄色みの緑
柔かい表情
表層に色溜り 6方柱状結晶
エメラルドカット
三相インクルージョン
同コスケス 黄色みの緑 透明性欠きキズ多い 同上 同上
同チボール 青みがかった強い緑 色の柔らかさ少ない 同上 同上
ブラジル 青みの強い緑 青が緑の深さを損なう 丸みを帯びた結晶
オーバルカット
黒雲母インクルージョン
ザンビア 青みの強い緑
色ムラなく均質
冷たい表情 丸みを帯びた結晶
オーバルカット
黒雲母インクルージョン
ジンバブエ・サンダワナ 黄色みの緑
柔かい表情
上質の大粒石少ない スクエア、ラウンドカット トレモライトインクルージョン

博物館で出会える有名なエメラルド

「フッカー・エメラルド(ブローチ)」(コロンビア・ムゾー産 75Ct)
スミソニアン自然史博物館(ワシントンDC, 米国)

「ムガール・エメラルド」(コロンビア・ムゾー産 218Ct)
Allan Caplan Collection(所在地不明・一般非公開)

「エメラルド原石」(コロンビア・コスケス産 100Ct)
スミソニアン自然史博物館(ワシントンDC, 米国)

「パトリシア・エメラルド」(コロンビア・チボール産 632Ct原石)
アメリカ自然史博物館(ニューヨーク, 米国)

「エメラルド原石」(コロンビア・ガチャラ地区ベガ・デ・サンファン産 858Ct)
スミソニアン自然史博物館(ワシントンDC, 米国)

「インクィジション(宗教裁判)ネックレス」(エメラルドとダイヤモンド)
スミソニアン自然史博物館(ワシントンDC, 米国)

「エジプト産エメラルドのネックレス」(エジプト・クレオパトラ鉱山産)
大英博物館(ロンドン, 英国)

「エメラルド・ルース」(オーストリア・アルプス山系ハーバッハタール産 10Ct)
ウィーン自然史博物館(ウィーン,オーストリア)

「コロンビア・ムイスカ族の副葬品(エメラルド)」(コロンビア産原石)
スミソニアン自然史博物館(ワシントンDC,米国)

「スペイン統治前コロンビアの副葬品(エメラルド)」(コロンビア産原石)
ボゴダ黄金博物館(ボゴダ,コロンビア)

「エメラルドの短剣」(コロンビア産)
トプカプ宮殿(イスタンブール,トルコ)

「エメラルドの小物ケース」(コロンビア産)
トプカプ宮殿(イスタンブール,トルコ)

「金と宝石の地球儀」(エメラルドはコロンビア産)
イラン銀行宝石展示室(テヘラン,イラン)

「エメラルドとダイヤモンドの小物ケース」(エメラルドはコロンビア産)
イラン銀行宝石展示室(テヘラン,イラン)

「エメラルドを運ぶムーア人(オブジェ)」(エメラルド原石はコロンビア産)
グリーンヴォルト(ドレスデン,ドイツ)

「エメラルドの薬入れ」(コロンビア・ムゾー産 2,680Ct)
文化歴史博物館(ウィーン,オーストリア)

「エメラルドのパリュール(セットもの)」(コロンビア産)
フォルツハイム宝飾美術館(フォルツハイム,ドイツ)

「エメラルドの王冠」(産地不明)
ウェルテンベルグ美術館(シュトゥットガルト,ドイツ)

「エメラルドのパリュール」(ネックレス・イヤリング・ブローチ)
ローゼンボー宮殿(コペンハーゲン,デンマーク)

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エメラルド・キャッツアイ
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トラピッチェ・エメラルド

エメラルドの履歴書

鉱物名

ベリル Beryl

和名

緑柱石 (りょくちゅうせき)

石名由来

アギリシャ語で「緑の石」を意味するSmaragds(スマラグドス)より

組成

ベリリウムとアルミニウムの珪酸塩鉱物Be3Al2Si6O18

発見地

エジプト

硬度

7.5~8

比重

2.68~2.78

屈折率

1.577~1.683

複屈折量

0.006

分散度

0.014

結晶

六方晶系

結婚石

25年記念宝石

誕生石

5月

占星石

6/22~7/22(蟹座)

曜日石

火曜日

国の石

コロンビア スペイン ペルー

石言葉

Fortune (幸運)

その他

午後2時の宝石

No.5291
トラピッチェ・エメラルドルース
9.451ct
歯車の形から名付けられた非常に珍しいエメラルドです
*(アスタリスク)型は古代ギリシャ語で「小さな星」男女問わずお楽しみ頂けるお品物です
No.69
Ptペアシェイプエメラルドペンダント
2.020ct
大粒のエメラルドが2ct 大きすぎないセンターストーンは心地よい存在感が貴女を見る視線を魅了する事でしょう
美しい彩りと雰囲気を求める方にはピッタリです
No.6524
ハートシェイプ・エメラルドルース
0.80ct
透明感もあり、キラメキ感も色合いもとても綺麗です
石言葉は幸運、幸福、希望、安定
この幸運の名を持つ石はどんな形に変わるのでしょう
No.00037
エメラルドリング
E-0.480ct D-1.160ct
バケットダイヤ とエメラルドの並びがとても美しいリングです
メレーダイヤに挟まれる様に並んでいるのですがダイヤが浮いている様に見えます
ご希望のお客様にはダイヤを敷き詰める事も可能です