シトリン(Citrine)

あまり目立たない地味な宝石シトリンは、宝飾の歴史の中では、いぶし銀のようななかなかシブい存在です。
一口に黄水晶のイエローといっても、ゴールデンイエロー、レモンイエロー、レディッシュブラウンの“マディラ”、コニャックイエローの“パルメイラ”等、多彩に持ち味を演じ分ける宝石です。

―――カルティエの有名な「マハラジャのダイヤモンドネックレス」の白の大場面に映える黄色のアクセントを演じたのはレモンイエローのシトリン。
あのティファニーが米国のナチュラルパール(ミシシッピ淡水)のジュエリーシリーズで多用した黄色石が、地元ネヴァダ州産の天然黄水晶。
近年クリスティーズ・オークションでも、マディラカラーの大振りシトリンのイヤリングが、本来の素材価値を遥かに凌ぐ落札値($165,500)を記録しました。

英国ヴィクトリア女王期のヴィクトリアンジュエリーやアールヌーヴォー、アールデコ期の絢爛のジュエリーに於いて、イエロー系の石素材と云えば、それはトパーズを名乗った黄水晶も含めて、大半が他ならぬシトリンでした。
―――むしろそこに、西洋人の感性の奥深さを垣間見る思いです。

シトリンダイヤモンドプラチナリング

シトリンダイヤモンドプラチナネックレス1 シトリンダイヤモンドプラチナリング3
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シトリンのジェムメッセージ

クォーツグループの宝石としては本講座初登場。
また大シリカグループとしてはファイアオパール(第10稿)に続く2番目の登場です。
クォーツすなわち水晶宝石が、全宝石の“指導的基準石”と云われるのは、シンプルで普遍的な組成「二酸化珪素SiO2」(シリカ)を誇り、ジェムとしての標準的な硬さ[モース硬度7]を有するからです。
本来無色透明な筈の純粋水晶が、何らかの条件下でイエローに着色したとき黄水晶シトリンが誕生します。

そのイエローの原因となるのは、
①結晶に微量の鉄イオンが混入してカラーセンター(着色中心)に影響を及ぼす
②地中の自然放射線が作用して結晶格子に歪みをもたらす
③前述の②の状態で加熱される
の3因です。

①②が実現してナチュラルのシトリンが生れますが、私達が通常目にするシトリンは、同じく②で生れた天然紫水晶(アメシスト)を人為的に加熱して(つまり人為的に③を行って) 得られた黄色い水晶に他なりません。
従って、厳密且つ正確な表現を期すならば、それは“シトリンもどきのアメシスト”と云わねばならなくなります。
天然・非加熱のシトリンが一方で厳然と存在する以上、それはどこまでもシトリンに似せたアメシストなのです。
―――もしどこかであなたが、ナチュラル・シトリンに出逢う幸運があったなら今まで以上に愛してあげて下さい。

シトリンのマザーランド(代表的産地)

一般的なシトリン、つまりアメシストやスモーキークォーツの加熱処理水晶をシトリンと見なせば処女産地はブラジル・バイア州、ミナスジェライス州ですが、あくまで非加熱の天然シトリンに特定するならば、初期的な産地は欧州スペインのヒノヨサ地方で、時代は15世紀と云われます。
同時期のフランス産地説もありますが、それもスモーキークォーツを加熱した黄色の水晶のようでした。
参考までに、加熱を要さないシトリン天然石の新鉱脈が、ごく最近アフリカの中央マダガスカルで発見されました。

歴史の中のシトリン

本稿冒頭でも述べたように、世界の宝飾史上シトリンは重要な石素材でした。
諸国の王朝文化を彩った石たちは、確かにエメラルド、ルビー、サファイア、そしてダイヤモンドといったメジャー級の宝石が君臨しますが、一方多くのアンティークジュエリーの書物を紐解けばシトリンを始め、ガーネット、アメシスト、ペリドット、ムーンストーン、アクアマリンといった庶民的なジェムたちが、意外な存在感を発揮しています。
豪華で派手な宝石にはない癒し、安らぎを西洋人は味わい求めたのでしょうか。

シトリンダイヤモンドプラチナピアス4
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シトリンダイヤモンドプラチナリング5
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シトリンのトリビアから

■ルネサンス期にさしかかる頃のヨーロッパ諸国は互いの野心をむき出しにして、相変わらず戦争に明け暮れた時代です。
戦乱の世に生きた二人の貴婦人と、宝石シトリンに纏わる面白い話があります。

―――ハプスブルグ家出身の神聖ローマ帝国皇帝カール5世は、宿敵フランス国王フランソワ1世の支配下にあった北イタリアの領土を奪取すべく泥沼の深みにはまりつつありました。
平和を願うカール帝の叔母マルガレーテ大公女が考え付いたのは、彼女のフランス王室人質同然の娘時代に、友情を育んだルイーズ公女に手紙を送ることでした。

そのルイーズこそ、その時フランソワ王の実母となっていた人です。
マルガレーテはその手紙の中に、むかし友情のしるしに一緒に作ったシトリンのペンダントを添えたのです。
平和への祈りをこめたシトリンの美しさに触れたフランソワ1世はまもなくカール5世との和平を決意します。
時に1529年、カンブレー講和条約は両者の間で調印されました。
―――因みに、その7年後の1536年、忍び寄るオスマン帝国の地中海侵攻の脅威を共有する両国王は、史上初めて同盟関係を結びます。

■宝石一般を学び理解する上で、水晶が最良の基準石となることは前述しましたが、この水晶を人為的に生成した人工水晶が、工業・産業用物資として最も有用至便な素材の一つであることは周知の通りです。
異物を多く含んだり、単結晶ならぬ双晶産出も珍しくない天然水晶と異なり、純粋単結晶且つ完全均質の合成水晶は、極めて正確で安定した振動周波数が得られることから、米国がいち早く人工水晶量産化に注力し、軍用レーダー等での実用化を達成しました。
あの日米戦争の勝敗の分かれ目はまさにそこにあったとさえ云われます。

博物館で出会える有名シトリン

「ヴィクトリア期のシトリンのパリュール」(ティアラ、イヤリング、ネックレス、指輪のセットジュエリー) 穐葉アンティークジュウリー美術館(栃木・那須高原, 日本)

シトリン履歴書

鉱物名

クォーツ Quartz

和名

黄水晶 (きずいしょう)

石名由来

かんきつ類を意味するフランス語「シトロン」より

組成

二酸化珪素ガンSiO2

発見地

スペインのヒノヨサ地方(アメシスト加熱の黄水晶はブラジル)

硬度

7

比重

2.26

屈折率

1.544~1553

複屈折

0.009

結晶

六方晶系

結婚石

13年記念石

国の石

日本(ただし水晶として)

石言葉

Happiness (幸福) Friendship (友情)