アンデシン/サンストーン(Andesine/Sunstone)

猫好きでなくとも憎めないのが子猫のつぶらな眼。
よく見ると眼の中の瞳は黒くタテ長でそれが尚更愛くるしくも魔性的でさえあります。
―――そんな猫の眼の情景を宝石の中に再現したのが、猫眼金緑石、すなわちクリソベリルキャッツアイなのです。
ふっくらとした蜂蜜色した金緑石の中央を、くっきりと走る乳白色の光の帯はむしろ黒猫の妖艶な眼差し、とでも云うべきでしょうか。

本講座初登場の鉱物クリソベリルは、石名の一部でもあるベリリウム元素が、酸化アルミニウムに加わったものです。
酸化アルミニウムとは単体でコランダム(ルビー、サファイアの鉱物名)のことですから、それがベリリウムと合体した宝石がクリソベリルと認識しましょう。

サンストーン ルース

アンデシンダイヤモンドプラチナネックレス

アンデシン/サンストーンのジェムメッセージ

彩な顔ぶれを誇る長石フェルスパー・グループの、本講座一番打者に相応しい宝石はアンデシンとサンストーンです。
長石グループに属する宝石相互の相関関係の複雑さは、他グループに類を見ない混戦模様を繰り広げます。
グループ内に異なった結晶系が並存し、5種類もある端成分鉱物の間に様々な中間固溶体鉱物がぶらさがり、そこから更に変種鉱物が連なります。
カリウム(K)、ナトリウム(Na)、カルシウム(Ca)、バリウム(Ba)の各元素が、個別にアルミニウム珪酸塩と化合して幾多の長石鉱物を形成するのですが、Na系のアルバイト(曹長石)とCa系のアノーサイト(灰長石)が、6:4の比率で混ざり合って「アンデシン」(中性長石)が誕生します。
そしてその比率が微妙に変化して8:2となった時誕生するのがオリゴクレース(灰曹長石)で、その光学的変種が「サンストーン」(日長石)という訳です。
また、その逆の比率2:8の時に誕生するラブラドライト(曹灰長石)にも、同光学条件下でサンストーンが出現するから、何とも厄介な話です。
因みに、同グループの花形「ムーンストーン」の代表的なものは、Na系のアルバイトとK系のオーソクレース(正長石)の中間体サニディンという鉱物の光学変種名です(詳細は「ムーンストーン」の稿で)。――このように長石族は他の宝石族と比べても段違いに難解な宝石集団です。
曹長石と灰長石の中間体アンデシンの常態色は白からグレイですが、最近透明なオレンジッシュ・レッドの美しい石が多く出現します。
その赤色の色起源は微妙な銅元素と思われますが、それが地中で入ったナチュラルのものか、後から人工的に入れたものか(拡散加熱処理)、判定は産地ごとに別れるようです。
同じく曹長石と灰長石の中間体オリゴクレース及びラブラドライトの常態色も、白からグレイッシュ・イエローですが、そこに赤鉄鉱(前者の場合)や自然銅(後者の場合)が内包物として混入した時、ギラギラ輝くあのアヴェンチュリン効果を発揮して赤いサンストーンが誕生します。
近年米国オレゴン州で産出したラブラドライト系サンストーンは特に美しく、長石人気を一気に高めました。そして今世紀、中国のチベットや内モンゴル地区で見つかったサンストーンは、オリゴクレエースやラブラドライト系ならぬアンデシン系と判明し、あのギラギラ感が少ない代わりに、より透明で赤く鮮やかな新しいサンストーンのデビューとなったのです。

アンデシン/サンストーンのマザーランド(代表的産地)

アンデシンの発見地は上述の通り南米アンデス山系ですが、これは伝説の域を出るものではなく、年代・場所ともに特定できるものではありません。
初の商業的産地は中央アフリカはコンゴのニイラゴンゴ火山地域です(現在廃鉱)。
現在産地の主役は、中国のチベット自治区(ラサ近郊)及び内モンゴル自治区に移っています。
サンストーンの発見地は南インドですが、こちらも年代・場所を特定できません。
初の商業的産地は米国オレゴン州のボンテローザ鉱山。
ラブラドライト系サンストーンとして世界の脚光を浴び、「オレゴンサンストーン」の名(詳細次項)でメジャージェム入りを果たしました(1980年)。

アンデシン/サンストーンのトリビアから

■上述のように、灰曹長石オリゴクレースの変種としてインドで発見された「サンストーン」は、後に
米国オレゴン州で発見された曹灰長石ラブラドライトにも”あのギラギラしたサンストーン効果が出る”変種が出現したのを受けて、半ば強引にそれをサンストーンと呼称し、そこに地名まで冠せて「オレゴンサンストーン」として売り出されました。
そのネーミングにクレームを付けたのが、宝石学の最高権威スイスのエドワルド・グベリン博士(故人)でした。
氏の意を汲んで今度は、米鉱物学会の重鎮フレデリック・ポー博士が”サンストーンのギリシャ語形「ヘリオライト」と別称したらどうか”と仲裁案を出しましたが、現実的ではなかったようです。
その間グベリン案を巡って賛否両論の議論が沸騰し、最後にそれを総括する形で、”宝石学の父”と仰がれる米国GIAのリチャード・リディコート(故人)は”もとより「サンストーン」は鉱物名でなくあくまで商業名。
ならば既に認知された呼称を是認するのが宝石学(鉱物学でなく)の立場である”とグベリン案を退けました。
世界最大の宝石消費国アメリカの産学協同パワーの結果と見るべきでしょうか。
尚、オレゴンサンストーンは現在、オレゴン州のステートジェム(州石)に指定されています。

■アンデシンとサンストーンは、長石族にあってその赤系のカラーが持ち味です。ところが実際は赤の反対色グリーン系の美しい石も存在するのです。
赤発色の原因が銅や赤鉄鉱であることは前述しましたが、緑色の原因もどうやら同じ銅のようです。
銅片の大きさの違いで、通常(赤色石の場合)よりも更に微小なコロイド状の銅が結晶格子に入り、その結果格子間電荷移動が起こり、結晶が変化して緑色波長だけを吸収・反射する、その結果グリーンのアンデシンやサンストーンが出現するようです。

■サンストーンと云えば、中世期北欧の海賊団ヴァイキングが羅針盤代りに使った石、という逸話があります。
航海中曇った日でも空にかざすと太陽の位置が判ることから、太陽の石=サンストーンと呼ばれたようです。
しかしこれがサンストーン違いで、実際はその偏光性を利した「アイオライト」という、ノルウェイ生れの青い宝石(菫青石)のことで、今日のサンストーンとは無関係です。

サンストーン ルース2 サンストーン ルース3

アンデシン履歴書

鉱物名

アンデシンAndesine

和名

中性長石 (ちゅうせいちょうせき)

石名由来

発見地アンデス山地Andesの名より

組成

ナトウムとアルミニウムの珪酸塩鉱物NaAl2SiO8及びカルシウムとアルミニウムの珪酸塩鉱物CaAl2SiO8の中間固容体(構成比6:4)

発見地

南米アンデス山系

硬度

6~6.5

比重

2.65~2.69

屈折率

1.543~1.551

複屈折

0.008

分散度

0.012

結晶

三斜晶系

国の石

中国

アンデシン ルース4

サンストーン履歴書

鉱物名

オリゴクレースOrigoklase(A)又はラブラドライトLabradorite(B)の光学変種

和名

日長石 (にっちょうせき)

石名由来

太陽Sunのように輝く石より

組成

ナトウムとアルミニウムの珪酸塩鉱物NaAl2SiO8及びカルシウムとアルミニウムの珪酸塩鉱物CaAl2SiO8の中間固容体から2形態(構成比A 8:2 B 4:6)

発見地

南インド

硬度

6~6.5

比重

2.62~2.67

屈折率

1.543~1.551

複屈折

0.008

分散度

0.012

結晶

三斜晶系

国の石

中国

州の石

米国オレゴン州

石言葉

「シークレットパワー(秘める力)」

サンストーン ルース5